「あなた、初めて会ったときのこと覚えてるか?」
「ああ、覚えてる。元妻の路子さんが連れてきたんだったな。あのときは私の目を見ることが出来ずに小さな声で挨拶してたよなぁ。」
「そうよ、あのときは怖かったよ。日本に来てからも、誰も信用出来なかったよ。色んな事いっぱい聞かれた。でもあなた何も聞かなかった。静かに横になってマッサージ受けてくれた。」
「そうだったかな。」
「私子供の頃から見る夢がある。」
「どんな夢だ?」
「学校の夢ね。小学校で明日が運動会。私は先生から赤い帽子をかぶってくるよう言われた。それで、翌日赤い帽子を被ってきたら皆は青だった。私焦ったよ。どうすればいいかわからない夢よ。あの夢とても悲しいね。私一人だけが皆と違うって思った。なんで私だけが違うのか分からず悲しくなるのよ。でも、浅川と知り合ってその夢見なくなったよ。あのときマッサージを受けてくれて、何も聞かずお金をくれて、最後に『ありがとう』言ったね。お金くれて『ありがとう』言う人居ないよ。でも、あなた他の人と同じ様に今日は色々聞いてくるね。わたし、どうしたらいいか分からないね。」
これ以上詮索するのは難しいだろう。
「ガディー、すまなかった。もう聞かない。」
ガディーは、タオルで涙を拭い、マッサージを続けるという。私はまた横になって彼女のマッサージを受けた。
この頃になって、GADO-GADOには独自の感情が芽生えつつあった。COIのプログラムでは感情という因子は存在していないが、実際の人間とバイオチップでの組み合わせにおいては、その受容体としての人間の思考回路の影響を大きく受ける。
そのために、感情マップが生成され、1970年代に米国の心理学者が開発した「FACS(ファクス)」と呼ばれるパラメータを元に数値化された喜怒哀楽を組み合わせることが出来るようになっていた。
感情は、その記憶とも深く結びついているが、そのため深層部のユミツエワンの記憶はGADO-GADOの感情や記憶とも混じり合っていく。