エンタメととアートとの違いに関しては明確な確定はされていないものの、概ね、エンタメは閲覧者にとって心地よいものであることが多く、アートに関しては、理解する側の修練も必要だったりする事で単純な快楽のためのものではないと言える。
ここにきてAIである Midjourney の生成物がアートなのかそれとも違うものなのか?という部分を考えてみたい。
別ページにも書いたが、まず日本では芸術という概念が先にあったといえるだろう。それはなにかに秀でた創作物や技に関してのカテゴライズであった。簡単に言えば他と比較して、上手であるといった概念になる。
それに対しアートと言う概念は少し違う。
それが何であるかというのを、一言で言い表すことはできないが、私は「可能性の担保」と定義している。これは、「新しい価値の発見と創造」と言い換えてもいい。これら概念によって、例えばその作品の技術が稚拙であっても、その作品に別の価値があればそれはアートとして認識される。
さてそれでは、人工知能が作った画像はアートなのか?
実例としての画像
まず最初にMidjourney によって生成された画像を見てみよう。Midjourney では、生成したいものを文字で説明し、その単語(呪文みたいなもの)を基本として4つのサンプル画像が生成される。以下の画像はそれらキーワードを元に生成された元の4パターンを左に、そこから選んだ1パターンを右に配置してみる。
1.北斎と波
まず日本的なモチーフとして浮世絵的な単語を基本に設定してみた。使った単語は、「北斎、波、日本、宇宙船」などである。その結果発生した画像の1枚を再レンダリングしている。
画面下には多分日本の田園風景を要素として浮世絵風のトーンに統一した画像が配置されその上に波が配置されている・・・これは人間ではなかなか考えつかない構図だろう。
2. 巫女シリーズ
巫女を基本的なモチーフとして作ってみた。使用した単語は「日本、巫女、神社、鳥居」などでより文章的な構成で生成している。もちろん一旦英語に翻訳しているが単純な文章なら日本語でも認識する。
概ね、ミッドジャーニーで人物が出てくるときはその背景が整理されていて、人物が浮き立つような構図になっている場合が多い。
下記は日本語で「明治神宮、巫女」などの単語を入力してみた。実際レンダリングしたのは右上のコマから更にバリエーションを生成させ、周りの模様が花になったものを使っている。左下の花のような植物がなぜこの単語から生成されたかは不明であるが、それがまた面白いと言えるかも知れない。
ウィリアム・ギブスン的世界
サイバーパンクの小説家ウィリアム・ギブスンの Neuromancerという本の一節をそのまま入力したと思う。
これには設定時のキーワードを記録している。
The Matrix is a world within the world, a global consensus- hallucination, the representation of every byte of data in cyberspace. Case had been the sharpest data-thief in the business, until vengeful former employees crippled his nervous system. --ar 16:9 --hd
これは文章の最初に出てくるマトリックスという単語に大きく影響を受けているのがわかる。
二本足歩行の犬
専門学校での授業の際にこの話になって、生徒からのリクエストで何か作ってみようという話になった。そこに入力した単語が「二本足歩行の犬」という内容。
その昔初めて購入した画集がサルバドール・ダリだった私としては「ダリやん!」と、思わず叫んだ。
AIの制作物はアートなのか?
見ていただいた作例から私たちは何を感じ取るのだろうか?多分、色々な物語をその中に感じたのではないかと思う。
この情報から情動を起こすのがアートの機能なのだ。
AIの創作物でも、その効果があるなら、道具であるシステムとしてのAIを利用した生成物が、すでに「技法のシュミレーションから、思考のシミュレーション」に進化していると考えられる。
これまでは何かの手順だったり作業を代行するような場合にAIが使われる事が多かったと言えるだろう。それが、莫大な情報を蓄積しその傾向を分析することで、もととなる我々の意思の嗜好性をシミュレーションしていると言えるレベルになった。本来の機械学習と言うのは非常に単純な脳のシミュレータであって、できることは限られて居る。それでもある閾値を超えた時違う次元の現象を作ることができるかも知れないというのが、今回やってみて思ったことだ。
また、古来の芸術であってもすべてをゼロから作り出しているのではない。それらは、これまでの概念、画像、映像、言語などを再構築することで成りたっている作品も多い。つまり、ベースとなる共有概念がなければ伝える事も困難になるが、そうして構成された情報をアートとして成立させるのは「選択」なのだ。
何を選択し、何を組み合わせるか、そういったプロセスが作品をアートとして機能させる。
つまり、何かを表現するる際に雑多な情報を整理し、必要なもので再構成したり、そこ新規性のある何かを追加する。この手順をAIは機械学習という手法でシュミレーションしている。
やっていることは人間とそれほど違いない。ただ、生まれた画像には価値がないという部分が違う。
その価値を認め与えるのはやはり人間なのだ。
AIでの制作では、人間がきっかけとなる単語を与え、それを選択した結果がアート作品と認められるという可能性は大きい。
従ってAIの制作物であってもアート足りうるということになるだろう。
それを描かせるためにどんな単語を選択したか?それでだけもそこに人間の意思(選択)が通っていると考えられるし、その出来の良し悪しは、先の「情報から情動」で判断すれば良いのだと思う。
人工知能の制作物に著作権はあるのか?
人工知能の作品に関しての著作権について調べてみた。これに関しては、「AIによって生み出される創作物の取扱い 平成28年1月内閣官房」などから、基本的に人工知能が生成したものには著作権は認められないということになる。
ただし、これは現行法解釈での上の話でもあり、それら生成における手順等などを加味すれば状況によって変わる可能性もあるだろう。
そのうえで、それを人間が加工すれば著作権はあるという判断になるが、これもまたどこまで加工すれば著作物として認められるか不明だ。
ミッドジャーニー側としての著作権に関しての情報
ミッドジャーニー側の作品の商用利用に関しての取り決めは以下の通りだ。
You basically own all Assets you create using Midjourney’s image generation and chat services. This does not apply if you fall under the exceptions below. See Terms of Service for full details.
Midjourneyの画像生成・チャットサービスを利用して作成されたアセットは、基本的にすべてお客様の所有物です。ただし、以下の例外に該当する場合は、この限りではありません。詳しくは利用規約をご覧ください。
例外とは、無料プランで生成されたものと、年間総収入100万ドル以上の企業の場合(エンタープライズプランに加入することで可能)となる。
https://midjourney.gitbook.io/docs/billing
会話形人工知能にミッドジャーニーの単語を考えてもらう
Microsoftの人工知能りんなに以下の質問をした。
「ミッドジャーに入力するから好きな単語教えて」
その答えが
「好きな言葉は「推しについて語りたい」」
であったので、それを英語で翻訳し生成したのがこの画像。これで、人工知能が考えた単語で人工知能が絵を描くというループができた。
なんとも示唆的な画像ではないか・・やっぱすげー。